2020.07.23

第69回 麻酔集中治療医が考える膵炎④

【血管内皮グリコカリックス】

 

血管内皮表面にはグリコカリックスとよばれる構造体が存在しており、血管内腔表面には、厚さ100 nm程度のゲル状の層が存在する。このグリコカリックスがsmall pore systemという水と溶質の血管内外の移動に関わるシステムの主体であることがわかった。アルブミンの直径が6-7 nmほどであり、グリコカリックスのふるい効果の閾値は7-8 nmと言われている。グリコカリックスは陰性に荷電しているためにcharge filterとして働くだけでなく、size filterとしての役割も存在する。

 

主に以下の4つの機能を持つ。

 

 

  • Shear stress関連の血管内皮細胞機能維持
  • 血管透過性制御
  • 止血凝固機能制御
  • 抗炎症作用

 

 

血管透過性に関しては、Starling式が実験での測定結果と理論値が合致しないことに対する疑問があった。

電子顕微鏡の固定法が進歩したことにより、血管内皮細胞管腔側のグリコカリックスの全貌が明らかになるにつれ、グリコカリックスが血管透過性に深く関与していることが明らかとなった。

これにより、間質膠質浸透圧のかわりに、グリコカリックス直下の膠質浸透圧を用いて、Starling式が改訂された。

これにより、以下の項目が臨床的に重要となる。

 

 

  • 血管内容量にグリコカリックス容量が加わった
  • 膠質浸透圧による血管内への水の移動は否定され、間質から血管内への水の移動は、リンパ管を介して行われる
  • 等張電解質輸液(細胞外液補充液)であっても、血管内ボリュームが少ない、すなわち静水圧が低い状態では、血管内に留まる

 

 

臨床的に重要となるのはグリコカリックスが血管内皮細胞機能維持と血管透過性維持効果を有することである。つまり、グリコカリックスが傷害されると血管透過性が増加し、血管外漏出が生じ、血管内ボリュームの減少を引き起こすということである。言い換えれば、グリコカリックスの有り無しで水分の流出は大きく変わるということである。つまり膵炎によりグリコカリックスが傷害された結果、全身循環に異常をきたし、臓器血流を減少させる。また膵炎では消化器症状(嘔吐・下痢)による体液量の減少も臓器血流を減少させる要因になっていることが予想される。