2020.04.26
第17回 PEEPやCPAPがCHFの呼吸管理で活躍する理由(獣医麻酔集中治療)
自分で人工呼吸器を咥えて色々なモードを試したときにCPAPを経験したのですが、これが結構しんどいんですよね。
でもうっ血性心不全(CHF)の動物にCPAPやPEEPを行うと呼吸がラクになるんですよね。このメカニズムについて説明しますね。
まず、低酸素血症の原因を以下に説明しておきます。簡単にですが。
原因は…
①低換気
②拡散障害
③シャント
④V/Q不均衡
ですが、麻酔中に生じている低酸素血症はほとんどが、以下であることが多いですね。
A. チューブが深くまで入りすぎている
→チューブが気管分岐部付近まで入っているのなら、手前に引けば改善します
B. 分泌物で詰まっている
→サクションで吸うことで解決します。
特に猫で挿管時に粘稠性の高い分泌物を確認していたら要注意です。肺腫瘍なんかも出血しちゃったりしたら、結構気管から出血して詰まります。
C. AもしくはBの結果、肺が虚脱
→肺を拡張させる。リクルートメントマニューバー(RM)とか、バイタルキャパシティーマニューバー(VM)と言われますが、我々がよくやるのがVMです。気道内圧25cmH2Oにして、10秒間維持させます。場合によっては血圧めちゃくちゃ下がるので、循環不全の動物には避けましょう。
では、疾患によって生じる低酸素についてもまとめておきましょう‼️
●拡散障害
→肺胞と血液の間に隙間ができてしまい、肺胞から血液への酸素の拡散がうまく出来ないことです。これには肺水腫や肺炎が含まれますが、単純な拡散障害なら酸素濃度を上げれば見た目のSpO2は改善します。つまり麻酔中は高濃度酸素を使っているので、拡散障害によって麻酔中低酸素血症を呈することはまず無いでしょう。
●シャント
→簡単に言えば、片肺換気みたいな状態を50%シャントとして考えます。つまり、片肺はSpO2が100%(酸素化されている)で、もう片方の肺はSpO2が75%(静脈のまま)なんです。だから、
(100+75)÷2=87.5%となり、低酸素ですね。片肺換気や分泌物で片肺が完全に詰まってしまった場合がこれですね☝️
心原生肺水腫などの肺胞疾患では、シャント(つまり肺が虚脱して含気されていない)が生じています。
こうなると、本来は図のような肺胞と血液の関係ですが、
肺胞が虚脱してしまったら、その虚脱肺を通過する血液は、肺胞から酸素を供給されずに、いわゆる素通りしてしまうわけですね。つまりその血液は静脈血のままです。
それが以下の図です。
左肺は酸素化されているのでSpO2は100%ですね。ただ右の肺は酸素化されないので静脈血のままです。つまりSpO2でいうと75%くらいですね。
●V/Q不均衡
→換気と血流の不均衡です。100個のヘモグロビンを酸素化できる肺があって、そこに100個のヘモグロビンが流れてきたらSpO2は100%ですね。これが普通の状態です。
もし、肺の片側が一部虚脱してしまい、80個のヘモグロビンしか酸素化できない場合、そこに100個のヘモグロビンが流れてきたらSpO2は80%ですね。もう片方の正常な肺はSpO2は100%です。それが混ざり合って全身循環したら、全身のSpO2は90%になってしまいますね。
これは肺の一部が換気できないが、血流は普通なので生じる弊害ですね。低V/Qといいます。
逆に、肺は完全に普通だけど、血流が少ないものを高V/Qといいます。これは心拍出量が減少している動物で生じるので血圧を上げて拍出を増やすとSpO2は改善します。
CPAPやPEEPで呼吸がラクになる理由
①シャントを減らす
シャントになると動脈血と静脈血が混ざるので低酸素血症になります。ちなみにシャントがあると酸素投与しても肺そのものに酸素が入らないので、酸素投与に反応が悪い疾患といえます。
CPAPやPEEPで虚脱した肺を再疎通させるのが目的で、最大のポイントは、
酸素化の改善
です
②肺を膨らませるための労力を減らしてあげる(呼吸仕事量の軽減)
非常にわかりやすいyoutubeがありましたので、埋め込みしておきますね。
https://www.youtube.com/watch?v=hOa7zO1lImI
この動画を見ると一目瞭然なのですが、PEEPをかけてあげると少ない力で簡単に肺が膨らむのと、呼気が終了しても肺は虚脱しませんね。FRCを増加させることで酸素化と肺の虚脱と疎通をせずにすむので、肺にとって非常に優しい管理が可能となります。