2020.04.26
第18回 前負荷と心拍出量(獣医麻酔集中治療)
呼吸器ジャーナル vol.66 no1. 2018 p73より引用改変しております。
全身循環はまさに図で示したように、左室から拍出された血液が全身を流れ、細胞のミトコンドリアに酸素を供給する。そして作られた二酸化炭素が静脈を介して右房に戻っていく。その血液が肺動脈を介して酸素化されて、再び左房、左室へと供給され、全身循環するサイクルを延々と繰り返している。
前負荷:心臓に戻ってくる血液と表現されることが多い。麻酔領域では静脈還流量といわれる。
心拍数が一定の時、左室前負荷が増えると(心臓に戻ってくる静脈還流量の増加、図では右房圧としている)、図のフランクスターリング機序によって、心拍出量(一回拍出量)は増えます。
つまり、
心臓に血液戻ってくる量が増えると、その分だけ、次の心臓の収縮が強くなる
ということですね。
さらに、青で示した曲線が正常な心機能曲線であるが、例えばドブタミンやドパミンを投与すると、この曲線は赤の曲線へと変位する。これに伴って、前負荷が増加した場合、さらなる心拍出量の増加を引き起こします。
要は、
心臓の収縮力を上げると、心臓に血液が戻ってくる量に応じて、
通常よりもさらに心拍出量の増加を引き起こす
ということですね。
臨床的な話をすれば、輸液をすると、その量に応じて次の拍出量が増加するということですね。
さらに、強心薬で収縮を高めておけば、さらなる輸液の効果を高めることができるかもしれないということですね。
後負荷:たとえば、左心室が大動脈に駆出するときに、どれだけ頑張ったかを示した指標が後負荷です。麻酔領域では血管の緊張を示すことが多く、後負荷が増加したとなれば、血管が締まったということです。血管が締まれば締まるほど、心臓が駆出するために努力が必要ですからね。
図は先ほどと同じフランクスターリング曲線ですが、正常心(青)から血管を締めると心機能曲線は緑に変移します。
収縮能が同じであっても後負荷が大きいと、まるで収縮能が低下してしまったような心機能曲線となります。
こうなってしまうと、いくら心臓に血液がたくさん戻ってきても、心拍出量の増加はあまり得られません。
つまり、
血管収縮薬の使用方法を誤れば、心拍出量に重大な問題を引き起こし、臓器不全などの障害を発生します。
だからこそ、心臓生理学と薬理は麻酔や集中治療には必須なわけですね。それ以上に、生体メカニズムは複雑ですが。
それじゃ、また!