2020.04.27

第20回 静脈生理:central volume shift??(獣医麻酔集中治療)

静脈生理を理解すれば、循環管理の幅は大きく広がります。

 

 

 

①stressed volume と unstressed volume

 

静脈は全血液量の70%もの血液を保持している=血液の大株主です!

 

 

 

静脈は容量血管と呼ばれています。

 

 

 

前回書いた動脈は抵抗血管と呼ばれています。

 

 

 

 

しかも、この静脈は、面白く、70%の血液のうち「循環に関与する血液」と「循環に作用しない血液」に分けられるのです。

 

 

今一度、ゆっくり考えましょう。

 

 

 

左室から拍出された血液が全身循環し、細胞のミトコンドリアに酸素を供給します。産生された二酸化炭素を静脈血が運び、右心房に戻ってくるというのが一連の流れですが、この戻ってくる静脈血はごく一部であることがわかっています。

 

 

では、残りは?

 

 

 

 

静脈にプールされています。

 

 

 

だって、容量血管ですから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

右房に戻ってくる血液は静脈還流量(VR: venous return)といって、基本的には心拍出量と同じなはずです。右房に戻るということは循環に関わっているので、これはstressed volumeですね。いわゆる中心静脈圧(CVP)はこのstressed volumeを反映します。

 

 

 

 

VR=(Pmsf-CVP)/Rv

 

 

 

 

で求まるのです。

 

 

 

すいません。また数式です。

 

 

 

Pmsf: 平均体血管充満圧

 

Rv: 静脈抵抗

 

 

 

 

少しだけ、人工呼吸について考えましょう。陽圧換気をするとCVP(厳密には右房圧)が上昇します。

 

たとえば、気道内圧を上げすぎれば、CVPを上げすぎてしまい、計算上VRはゼロに近づきます。

 

だから人工呼吸を過剰にしてしまうと、血圧が下げってしまうということですね。

 

 

 

 

もっと病態的な状態を考えると、

 

心タンポナーデや肺血栓塞栓症があります。

 

これら疾患が急発症すると急激なCVP上昇を引き起こし、まったく代償できずにVRはゼロになってしまうのです。そうするとショックや失神などの臨床症状を引き起こします。

 

 

 

 

では、きっと疑問となっていると思われるPmsfについてです。

 

 

 

 

Pmsfはとても重要な圧であり、この先のGuytonの理論につながります。

 

 

 

Guytonは、犬を用いた実験で独自のポンプを作成し、静脈還流量を変化させながら、右房圧の変化を記録しました。

 

ポンプを止めると静脈還流量がゼロになります。そうなると心拍出量もゼロになります。その結果、動脈圧は低下し、それにつれて静脈圧と右房圧は上昇します(流れがないので静脈内でうっ血するので、徐々に上昇する)。そうなると、最終的には動脈圧、静脈圧、右房圧すべてが同じ圧に収束します。この時の圧をPmsfと言っているわけですね。

 

つまり、心臓を止めたときにすべての圧が同じになったときの圧のことです。

 

このときにポンプを再び回すと、心拍出量が回復し、右房圧がみるみると低下していくということを証明した研究です。

どこかのタイミングで静脈還流曲線を解説します。

 

 

 

 

 

 

たとえば、

輸液をすれば

 

VRは増加しますが、PmsfとCVPは両方とも増加します。輸液もstressed volume を増加させます。ものすごい脱水しているときなんかは、なかなかstressed volume にならずに、unstressed volumeになって循環に関与してくれず、血圧上昇を得られないこともあります。まぁ、足りないなら輸液追加するしかないですね。

 

さらに、

血管収縮薬を使用しても

VRは増えます。stressed volume が増えるのためです。このときPmsfの上昇は著しいので、脱水のない症例であれば効率よくVR増えたりします。

これが、central volume shift の概念に近いです。

 

心不全治療に心エコーを生かす MEDICAL VIEW p15より引用改変いたしました