2020.05.02
第31回 心エコーから紐解く強心薬のタイミング?(獣医麻酔集中治療)
はっきり言って、心エコーは得意ではない。
が、麻酔集中治療専従医が最低限しっておくべき、心エコー図検査について考えてみた。
エコー検査では、視覚的な情報を多く得ることができる。心筋の収縮性なんかは目に見えて評価できるわけで、これを使わない手立てはない。これで強心薬と自信もって判断できる。
①心エコーによる血行動態の評価方法
〇うっ血の評価
右房圧は一般的には下大静脈系から推測することが可能である。
ICU管理では中心静脈圧を測定可能であるため、右房圧を間接的に知ることが可能である。
左房圧は推定が難しいとされている。
左室流入圧波形や僧帽弁弁輪運動速度などが一般的には使用される・・・と思われる。
収縮期肺動脈圧は三尖弁逆流に連続波ドプラを当てて、右房右室間圧較差が測定可能。
拡張期肺動脈圧は肺動脈逆流があるときには同様に推測可能。
〇低灌流の評価
使いやすいパラメーターとしては、
左室流出路時間積分(VTI)
である。
これに左室流出路断面積を掛け算して算出すると一回拍出量(SV)が求まるし、これに心拍数を掛けたら心拍出量(CO)になる。
つまり、この低灌流=心拍出量の低下=一回拍出量の低下=VTI低下が強心薬のタイミングかもしれない。
獣医療ではFSがよく用いられるが、FSが低くても、SVやCOが低いというわけではない。
したがって、FS低下=強心薬が必要とは必ずしもならない。
②心エコーによる病態評価(どんな疾患が隠れているか?)
これを確認する必要があるのは、強心薬の使用によって病態が悪化する疾患が少なくとも存在するためである。
〇虚血性心疾患
正直、このような病態を獣医療でどこまで診断しているのかは知らない。しかし、麻酔やICU中に、心筋虚血を疑うことがまれにある。いわゆるST低下や拡張期血圧低下による不整脈である。これが本当に虚血性疾患なのかはわからないが、この場合、強心薬の使用によって、心筋酸素消費量が増加する可能性は否定できない。
特に猫で麻酔管理中にこのような事態に遭遇することが私の場合、多い。
では、どうするか?麻酔薬による影響なら原因となっている麻酔薬の量を下げたり、低血圧が原因での虚血なら血圧上げないといけない。ただここでエフェドリンなどを使用すると如実に不整脈が増えたりすることもある。そのため、治療は本当に難しい。
結局どうするのか?誤解を与えたくないので、ここからは麻酔に興味ある人だけに提供できる内容にしたいので、ブログではやめておきます。すいません。
〇肥大型心筋症
心収縮力増加
脱水(前負荷減少)
後負荷低下
これは左室流出路狭窄を引き起こし、一回拍出量を顕著に低下させてしまう可能性がある。
いつも思うのだが、覚醒下のエコー検査ではLVOTないが、麻酔前の絶飲食によって前負荷低下し、さらに低血圧治療などでエフェドリン使ったりすると、術前でなかったLVOTが生じている疾患も多くなる気がしている。
ただ、最初にも言いましたが、筆者は循環器専門ではないので、この辺はあまり突っ込まないでいただきたいです。
〇心タンポナーデ
収縮および拡張機能障害による顕著な一回拍出量の低下
これは心嚢ドレナージが一番良い。
しかい、右房自由壁の圧排だけの症例では、ドレナージしてもたいして循環は改善しない。というか、この場合は大体普通にしていることが多い気がしている。問題は、心室内圧の高い右室の圧排である。これはドレナージがとても効果的である。
〇大動脈狭窄症
筆者の苦手な循環管理ワースト2である。
左室に十分な前負荷があっても、その出口が狭窄しているので、十分な一回拍出量が得られない。
というか、左室前負荷をかけて駆出を増やそうとする代償ともいえる。
そのため、利尿薬を安易に使用すると、左室前負荷低下による一回拍出量の急激な低下を引き起こす。
さらに強心薬使用すると心筋酸素消費量増加による心筋虚血を引き起こす可能性もある。
〇肺高血圧による右心不全
筆者の苦手な循環管理ワースト1。
これはむしろどうコントロールすべきか教えてほしい。
右室は左室に比べて地味な存在であるが、コンプライアンスは実は高い。つまりたくさんの血液を許容することができる。
したがって、かなり拡大する。そうなると心室中隔壁が左室側へ圧排され、左室の物理的な前負荷低下を引き起こす。
ある程度は左室の自由壁側も伸びるが心膜によってその伸展には限界が生じてくる。
これにより結構ひどい一回拍出量の低下を引き起こす。
それじゃ、また!