2020.05.04

第32回 左室と動脈の関係性について(獣医麻酔集中治療)

以前のブログ第21~23回で後負荷を急激に上げた場合と題してお話しましたが、具体的な臨床例を挙げていきたいと思います。

 

これは、若い症例と老齢の症例で考えることは実は変わってくると思います。

 

過去の第21~23回も参照ください。

 

 

 

左室と大動脈のカップリング

 

 

ようは、心収縮と心後負荷のバランスが正常心では取れており、この二つのバランスが完全にイコール(カップリング)のときに一回仕事量が最大になることがわかっています。

 

 

 

 

ここでもう一度、PV loopを見てみましょう!

 

 

 

一回仕事量(SW)はloopの面積と相関する。というか面積を求めた値がSWである。

 

正常心においてはEa=ESPVR(Ees)となる。つまり、左室の収縮と後負荷がイコール(カップリング)ということである。

 

このように正常心では左室と動脈はカップリングしており、この状態で一回仕事量が最大となることがわかっています。

 

なんとこれは犬を用いた研究で証明されています。

 

それが下の図です。

 

 

 

Am J Physiol 261:H70-H76,1991より引用改変

 

ただ、どのようなカップリングが心臓にとって良いのかはわかっていないようです。

 

 

では、次にこちらの図をご覧ください。

 

 

 

 

オレンジのSWをご覧ください。

 

 

左は健常な若い心臓ですが、血管の硬さEaに対して一回仕事量が最大となるように、Ea=Eesカップリングができています。

 

 

 

右は高齢者などの心臓ですが、左室機能が正常であればEes=Eaカップリングが崩れておらず、加齢で硬くなった血管に対して、仕事量を維持するためにEesを増加させてカップリングを維持しています。ちなみにこのEes(収縮)の増加は交感神経亢進だそうです。

 

 

 

老齢の心疾患を持つ動物でも、左室機能が保たれていれば交感神経亢進によってSWは維持されていますが、麻酔薬によって、この交感神経系が抑制されると(吸入麻酔、オピオイドなど)、このカップリングは崩れるため、この状態で血管収縮薬を投与した場合は、ある程度のダメージは避けれませんね。

 

 

 

 

前負荷を増加させた場合が、赤のPV loopですが、高齢の場合、左室拡張末期圧も前負荷の影響で高くなりやすいので、輸液にしても昇圧にしても注意が必要ですね。

 

 

 

高齢者の心臓は若者と比較すると、その仕事量が大きいのですね。ただでさえエネルギー負荷が大きい心臓に対しては、昇圧剤の使い方が本当に難しいですね。