2020.05.09
第38回 肺保護換気について(獣医麻酔集中治療)
肺はとてもデリケートな臓器であるのですが、麻酔中は肺のことよりも、
PEtCO2
をどうコントロールするのか?に焦点が当てられて人工呼吸管理されるかなと思います
そのうえで、今はこの傷つきやすい肺をどう優しく換気してあげるかが大きな問題となっています
この考えは重症肺を相手に人工呼吸するだけでなく、麻酔中も意識してあげたほうが良いです
正常肺の場合、
正常な肺に一回換気量を送気すると、両肺ともに均等に理論的には膨らみます
では、たとえばコンプライアンスが低くなってしまった肺(コンプライアンスを忘れた方は過去のブログをチェック)と正常な肺の場合、
正常肺と同じ一回換気量を送気すると、正常肺がすべてのガスを受け止めてしまいます
新品の風船と、一度膨らました風船だったら、後者の方が簡単にガスが入りますね。これと同じ理論です。
空気は良く膨らむ方に逃げていくのです。
こうなると、正常肺は通常の2倍の空気が流れ込むことになり、病的肺胞は膨らまないため改善しないばかりか、正常肺が人工呼吸設定によっては障害を受けてしまうわけですね。
これがいわゆるVILIと言われる人工呼吸による肺障害のことです。
このような背景から、病的肺が治るまでの間、もしくは心原生肺水腫治療で水が引くまでの間、人工呼吸で待っている間に、これ以上肺を傷つけない方法として、
肺保護換気
という概念が生まれました
では、これを防ぐにはどうするか?
単純な答えはこれです
このような疾患なら、送る換気量を減らしてあげれば、過剰に肺が含むことはないよね、ということです
肺保護戦略の一つとして、低容量換気(Low tidal volume ventilation)が推奨された理由はこのような背景があるからです
つまり、ARDSのような硬い肺は、正常に機能している肺胞が非常に少なく、実際に換気に役立つ肺胞は、
「赤ん坊の肺のように小さい」
と言われ、Baby Lung conceptといわれています
このように肺保護戦略の重要な役割に「一回換気量を制限する」があるわけです
では、実際にはどのような換気量にするのか?
人の場合、通常の一回換気量は8-10ml/kgと言われています
しかも、獣医療と異なり、基本的には実体重ではなく、予測体重をもとに一回換気量が決定します
犬では10-15ml/kgが一回換気量とされており、人と比べるとやはり大きい一回換気量が必要となります
事実、犬で8ml/kgの実体重で人工呼吸管理するとあっという間にPEtCO2が60mmHgを超えていきますね
健常な犬の研究では、犬が肺をきちんと拡張させ、二酸化炭素の呼出も問題なくするには15ml/kgが良いという研究もあります
また、獣医療では重症肺のコントロールに一回換気量が12~13ml/kg必要であったとする論文もあり、人と同じようなコントロールは厳密には難しいと思われます
人では、
ARDSと診断された際の一回換気量の推奨量は6ml/kgです
そして、プラトー圧は30cmH2O以下です
もし、このプラトー圧が30cmH2Oを超える場合には、一回換気量を4ml/kgとかに下げていきます
肺保護戦略のエビデンスとしては、過大な一回換気量とプラトー圧を避けることだけが確立されています
ここで難しく感じるのは、プラトー圧30cmH2Oまで良いのか?大丈夫なの?と獣医療では思われる先生も多いでしょう。
これは一回換気量によります
ようは、