2020.05.09
第39回 肺保護換気②(獣医麻酔集中治療)
肺保護戦略の要として、一回換気量制限=Low tidal ventilationを前回話しましたが、
今回は、もうひとつの要である、
Open Lung Strategy
について解説していきます
ひとつだけ先に言わなくてはならないのが、よく質問される
PEEPはどのくらいが良いのか?
PEEPは麻酔中はやったほうが良いのか?
この答えは患者さんによって違うので、答えはないです
したがって理論をご自身で理解し、咀嚼する必要があります
PEEPの役割などについては、ブログ第16,17回を参照してください
肺障害を引き起こす困った問題に肺の開通と虚脱があります。つまり、この開通と虚脱を繰り返すと肺はダメージを受けます。
いくら一回換気量を制限しても、肺が膨らんで、また縮んでを繰り返すと、潤滑剤としての役割を果たす肺サーファクタントがなくなり、人工呼吸関連肺障害を起こすことが知られています。
これだけでなく、肺胞は密に並んでいるので、隣の肺胞とのバランスが大切なのです
つまり、均等に膨らまないので、肺胞があっちこっちに引っ張れてしまい、肺胞同時が摩擦で障害されます
これを
「shear stress」とか「ずり応力」
といっています
つまり、
肺胞は潰れたら負け
なのです
少人数制の人工呼吸セミナーで実地などをした際に、聞いたのですが、人の場合は、
ご高齢の方と肥満患者様は、寝かせて人工呼吸してしまったら、抜管できないこともあることを覚悟しなくてはならないと仰っていました。例えば肥満患者様の場合、筋肉が萎縮することで脂肪を支えることができなくなってしまうため、抜管ができなくなることがあるようです
重症例の肺胞は潰れたら負け
肝に銘じておくべきことですね
PEEPや至適換気量を決めるために、知っておくべき曲線に、圧容量曲線というものがあります
この図を最も理解するためにイメージしていただきたいことがあります
風船を膨らませましょう!
いきますよー!せーっの!
膨らみましたか?
膨らみだしたところが
LIP(Lower inflection point)
と言います。
ここがその風船を膨らませるのに必要な最小の圧ということですね
そのあと、膨らまし続けていただけるとわかるのですが、ある一定のところまではスイスイ膨らんだと思います
それが↕で示したところです
そのあとは、あまり膨らまずに、むしろいつ割れるんだろうと恐怖を感じますね。
それが
UIP(Upper inflection point)
です。
つまり、肺というのは、LIPとUIPの間で肺を膨らませると、
過膨張もなく
shear stressもない
理論上理想的な換気を実現するわけですね
つまり、理想的なPEEPはLIP周辺になります。実際にLIP+2 cmH2OにPEEPを設定してあげると生存率が改善したという研究報告も出ています(Crit Care Med.2006;34:1311-8)
これがOpen lung strategyの基本となります
では、ARDSのような病的肺を見ていきましょう!
今度は先ほどと違って、風船がめちゃ硬いので、膨らませるのにものすごい労力がかかりますね
しかもBaby lung なので膨らんだと思ったらあっという間にパンパン・・・といった感じで、LIPとUIPの間にあまり余裕がありませんね。その割に肺容量は全然入らないので、これをいつものように一回換気量15ml/kgとかにしちゃったら、そりゃ、障害起きるわけだ・・・ということがご理解いただけたと思います
このLIPさえ理解できれば、あとはこのLIPを計測するだけですね!!
そのためにはある程度高性能のPV loopが見れるモニターが必要です
ただし、これでは正確なLIPは測定できないのです・・・残念ながら。ここには空気を入れる流速も関わってきちゃうので難しいです。つまり、フローを超ゆっくりにしたりするのです
ちょっと煩雑なので、人ではARDSネットワークがLIPを用いずにPEEP設定とFiO2の対応表を作成しています
それが
FiO20.30.40.50.60.70.80.91.0PEEP55-88-101010-141414-1818-24
これも注意ですが、肺が悪い動物に対してですからね!
健常な犬猫には全然やらないでいいです
その辺の理由なんかは面白いので、VESコミュニティーで話します。