2020.05.14

第41回 獣医麻酔:甲状腺機能低下症の麻酔管理①

【麻酔管理で知っておくべき甲状腺疾患の基礎知識】

甲状腺の調節

 

 

甲状腺は、下垂体から甲状腺刺激ホルモン(thyroid-stimulating hormone:TSH)によって刺激を受け、甲状腺ホルモンを分泌する。このTSHは視床下部からの甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(thyrotropin-releasing hormone:TRH)によって刺激を受けて調節されている。

 

甲状腺機能低下症となると、まず甲状腺ホルモンが低下するため、TSHが上昇します。

 

逆に、甲状腺機能亢進症となると、TSHが減少します。

 

 

 

甲状腺ホルモン産生

 

二つのホルモンがあり、チロキシン(T4)とトリヨードサイロニン(T3)です。

 

甲状腺から分泌されるT4は活性がなく、その後末梢組織で変換されたものがT3です。これは脱ヨード酵素で脱ヨード化されています。

 

 

 

臓器別甲状腺ホルモンの作用

 

<熱などの代謝に対して>

 

甲状腺ホルモンがミトコンドリアにおけるエネルギー活性を高めるため、酸素消費量の増加と体温を上昇させます。

そのほかに筋肉などの異化亢進作用が認められます。

そのため甲状腺機能低下症では低体温、甲状腺機能亢進症では高体温が認められます。

甲状腺機能亢進症の猫では異化亢進による筋萎縮も生じます。

麻酔管理では代謝亢進による麻酔薬の薬物動態、薬力学に影響を及ぼすことが知られています。

 

 

<心臓に対して>

 

甲状腺ホルモンによって、β1受容体の数を増やすことが報告されており、カテコラミンの作用を増強するとされています。

したがって、β1受容体刺激によって、心拍数増加と血圧上昇、心拍出量の増加を引き起こします。

甲状腺機能低下症では徐脈、甲状腺機能亢進症では頻脈になります。

甲状腺機能亢進症では心拍出量が増加することでいわゆるファーストパスが増え、薬物代謝が早くなることが指摘されています。

逆に甲状腺機能低下症では薬物代謝遅延、β受容体のダウンレギュレーションが生じると指摘されており、カテコラミン作用が効きにくい可能性もある。

 

 

 

<呼吸に対して>

 

甲状腺ホルモンは低酸素に対する換気応答や二酸化炭素蓄積に対する換気応答が保つ作用がある。

そのため甲状腺機能低下症では肺胞低換気が生じることがあり、高二酸化炭素血症を示すこともある。

覚醒下よりも麻酔中で顕著である。

 

<消化管>

 

蠕動運動を亢進させるため、甲状腺機能亢進症の猫では下痢などの症状を示すこともある。