2020.05.15
第48回 獣医麻酔:甲状腺機能亢進症の麻酔を探る
<術中麻酔管理の実際>
甲状腺機能亢進症に限らず、麻酔中は血圧を維持し臓器血流を維持すること、心拍出量を維持して酸素運搬量を調節すること。
この目的は変わらない。問題は、麻酔薬や手術の影響によって低血圧が生じた際の対応である。
ただでさえ、疾患による心筋酸素消費量の増大がある以上、これ以上の負担は避けたい。
したがって、不十分な鎮痛は交感神経刺激を高め、後負荷を増大させるため、バランス麻酔とマルチモーダル鎮痛、可能なら神経ブロックを併用し、十分な鎮痛対応をすべきである。
血圧管理については
輸液、ドパミン、エフェドリン、フェニレフリンなど単調な作用を理解している、またアルゴリズムに沿った循環管理では歯が立たない。
心肥大を呈した甲状腺機能亢進症では拡張能の低下が予想される(図1,2)。
図1 図2
また、輸液した際には、このEDPVRに沿って左室拡張末期容量(EDV)は右方変移する。
したがって、実際のPV loopとしては、図3のように変化していく。
図3正常a→拡張能低下と前負荷増大b
図3bの状態から前負荷を増大させたら、あっという間にEDV増大と左室拡張末期圧(EDP)を上昇させ、肺水腫などの合併症を引き起こす。拡張能を改善させるのは難しいが、心拍数は高くしないほうが良い。これによって拡張時間を多く稼ぐことが可能となる。輸液による前負荷増大は脱水を認める症例には妥当な選択となるが、脱水を認めない症例で前負荷を増大させたいときには心拍数を調整したり、後負荷増大による前負荷増大を図る。では、この状態で後負荷を増大させた場合にはどうなるかを考えてみたい。
図4
後負荷が増大すると、PV loopは黄緑色となる。後負荷増大によってある程度の前負荷増大は得られるがSVが低下したりしてしまう。この状態から心収縮力を増大させる薬剤を投与すると図5のように変化する。
図5
ある程度のSV増大は得ることが可能となる。
つまり、甲状腺機能亢進症の循環管理はどれをとってもあまり有効な方法はなく、どれかに依存しすぎてしまうと悪影響を引き起こすので注意が必要である。
ポイントは心拍数を低めに維持しながら、適度な後負荷と前負荷を維持することである。筆者はメデトミジンを積極的に使用して、吸入麻酔薬を少なくし、図5もしくは心拍数を低下させることで図6のような状態をイメージしている。
図6