2020.05.17

第51回 獣医麻酔:糖尿病麻酔について①

【麻酔管理で知っておくべき糖尿病の基礎知識】

 

<血糖調整>

糖尿病麻酔に考える前に、血糖調節のしくみについて考えてみます。

糖尿病は膵臓β細胞の破壊に伴いインスリン分泌が絶対的に不足するⅠ型糖尿病と、インスリン分泌の減少と組織におけるインスリン感受性低下によって高血糖が生じるⅡ型糖尿病に分類されている。

 

食事などで摂取された炭水化物が分解され、消化管から糖となって吸収されていきます。

血液中に入ったグルコースは、脳で使用されたり、肝臓、筋肉および脂肪に貯蔵されたりします。

いわゆる同化です。

この同化を助けているのがインスリンであり、これによって血液中のグルコースは低下します。

 

これと逆の働きをするのが異化です。

 

つまり体がグルコースを使用しやすくするためにグルカゴンやカテコラミン、コルチゾールおよぶ成長ホルモンが関わります。

 

これによって血糖値は上昇するわけです。

 

 

 

<糖尿病の何が問題なのか?>

 

犬では100頭に1頭、猫では500頭に1頭の割合で糖尿病を発症すると言われているが、高血糖が生じた際には果たしてどのような問題が生じるのだろうか?

体はグルコースを使ってATPを産生しますが、糖尿病の場合、エネルギー源としては多量に存在するが、それをうまく使えない、そんな状態です。

 

 

つまり、この血液中に存在するグルコースをインスリンを使って細胞内に有効利用することが必要となります。

したがって、インスリンが絶対的に欠乏していたり、感受性が低下してしまうと、細胞内は飢餓状態と変わらない状態となります。

ただでさえ、麻酔中は低血圧や循環障害が生じやすいため、糖尿病を併発していると、ATP産生を効率よくできなくなるためより重篤化する可能性もあるわけです。

 

 

<この状態が長期間続けばケトン体が産生される>

 

ただ体としては、エネルギーがなければ生きていけないので、脂肪酸を介したエネルギー産生に切り替わります。

脂肪酸はβ酸化を経てアセチルCoAに変化します。

そしてクエン酸回路に入りグルコースと同じエネルギー源へと変化します。

また肝臓ではアセチルCoAからケトン体が産生され、エネルギー源となるわけです。

ケトン体が出始めたときは、脂肪組織に頼ったエネルギー産生が行われている証拠でもあるわけですね。

 

 

この状態で、高血糖のまま糖尿病を放置してしまうと、細胞内としてはエネルギーは供給できているのですが、グルコースが入ってこないと錯覚し、脂肪酸分解が進行してしまい、過剰なケトン体産生となり、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)へとなっていきます。

 

DKAは様々な原因によって誘発されますが、手術当日のインスリン非投与および手術侵襲によって引き起こされることもあります。したがって、当日までの血糖コントロールおよび手術当日の血糖コントロールも非常に重要となります。